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箪笥豆知識

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箪笥のはなし・・・

和箪笥の生い立ち

和箪笥の歴史は意外と浅く、最も古くても江戸時代のもので、いわゆる時代箪笥といわれる箪笥は、明治から大正期にかけて大量に作られました。箪笥が使われる以前の日本の収納家具といえば、櫃(ひつ)・長持(ながもち)・つづら・行李(こうり)くらいで、これは蓋の付いた箱状のもの入れ物に過ぎません。
 
当時は庶民の手元には箪笥に入れるほどの衣類や物品がなかったため、作られなかったと考えられます。勿論貴族階級は古くからたくさんのものを持っていましたが、屋敷が広く櫃や箱程度のものがあれば事足りていたのでしょう。このようなことから、庶民の生活にもゆとりが生まれ始めた江戸時代から、箪笥が登場したのではないかと考えられます。
 
箪笥が最初に作られたのは大阪や江戸で、18世紀半ば過ぎには大阪や京都、江戸の周辺各地に箪笥の産地が生まれました。全国各地で趣向を凝らした箪笥が作られ始めたのは明治以降で、明治から大正期に優れた箪笥が数多く作られました。
 
大都市向けの箪笥を製作していたのではない生産地の、いわゆる地場産地(仙台や庄内など)では、地方色豊かな箪笥が生まれました。
 
こうした産地で独特の特色が形成されたのが明治10年代、それがいっそう洗練され生産も本格化したのが明治20年代、最盛期は明治30年代から大正初めと考えられています。
 
明治にならないと箪笥が発達しなかったのは、材木屋のない地域も多く、鉄や仕上げに使う漆も貴重品で、なかなか手に入らなかったためです。また倹約令や職人への厳しい規制等江戸時代の封建的な体制が、箪笥の発達を妨げた原因にもなったようです。そして近代化とともに生産性も向上し箪笥産業は急速に発展していきました。
 
このように隆盛を極めた箪笥産業ですが大正期までとなり、その衰退の原因と致しましては、大正末期から東京式の桐箪笥が全国的に流行の兆しをみせるなど、どの地方でも東京を模倣するようになりました。昭和に入ると地方色豊かな箪笥文化は次第に衰退していきました。
 
このような経緯を経て、いま時代箪笥が過去の歴史上も文化的価値のある、現代への遺産として残ってきているのです。

用途から見た箪笥

船箪笥

明治から大正にかけて物資輸送のために活躍した弁財船(千石船)などで、船乗りが使っていた貴重品入れ。19世紀の半ばころから明治20年ころまでが最盛期といわれ、大阪、江戸、佐渡が産地として有名です。たとえ船が難破したときにでも壊れないようにと、頑丈に作られた船箪笥は盗難防止もかねて複雑な細工が施されています。
 
また、船乗りの威厳と富を象徴するものだったため、華麗な装飾がほどこされているのも特徴です。
種類は金庫として使われた懸硯(かけすずり)と、帳箱、衣装入れとして使われた半櫃(はんびつ)の3種類があります。

車箪笥

衣装箪笥や帳場箪笥の下に車がついたもの。火災時に少人数で運び出せるようにと考えられた箪笥です。
大型のものは幅・高さともに1間近くありますが、一般的な大きさは幅・高さともに4尺から2尺5寸程度です。産地は秋田、三国、金沢、高山などです。
 
ちなみに江戸・大阪・京都といった大都市では、大火の際にこれらが道に引き出されると混乱をきたすため、製作も販売も禁止されていたようです。

帳場箪笥

商店の帳場に置いて金庫のように使ったもので、帳箪笥とも呼ばれます。
 
小引き出しや引き戸・開き戸などが、いろいろ組み合わせてある小型の箪笥で、人目に付く場所に置かれるため、店の威厳や信用にも関わることから、立派に作られたものが多く、デザインもバリエーションに富んでいます。

水屋箪笥

水屋とは本来茶室の隅にある茶器等を洗ったり、置いたりする場所のことです。それがいつしか台所に置いた、食器や食べ物等を入れる箪笥の呼称になったのでしょう。産地はさまざまですが京都や近江のものはよく知られています。
 
大きいものになると幅が一間半(9尺)もありますが、幅が6尺、4尺、3尺のものが殆どで高さは1間です。
 
形は引き出しや引き違い戸を組み合わせた、上下ふたつ重ねになったものが主流です。扉はすのこや金網等をつけて風通しをよくしたもの、文様をくりぬいた木の飾り桟がついたものなどが見受けられます。
 
材質は欅か檜、拭き漆や春慶塗、紅殻塗り等で、欅や黒柿等材質や金具の形状、袋戸棚や引き違い戸の構成等個性豊かで、箪笥職人が箪笥毎に趣向を凝らして、丁寧に仕上げられたものが多いようです。

階段箪笥

階段の下を収納に利用した箪笥で、引き出しや開き戸などを組み合わせた形になっています。
 
江戸時代からあり、狭い町屋や土蔵に階段によく使われています。建物のサイズに合わせて作られていますので、かなり幅が狭くて急なもの、手すりのついたものなどもあります。

茶箪笥

本来は茶道具を入れる小型のもので、前面いっぱいにけんどん扉がつき、上に下げ手が付いています。
 
一般家庭では茶の間に置かれる箪笥で、違い棚や袋戸棚などが組み合わせている箪笥のことをいいます。江戸時代からありますが普及したのは明治以降のことです。
 
こちらも構成的にも素材的にもバリエーション豊富で、趣向を凝らして使い勝手のいいように工夫されたものが多く、年代の若いものは硝子戸がはめ込まれています。

薬箪笥

漢方薬を分類・整理するための小さな引き出しが多数ついた小型の箪笥のことです。引き出しのサイズや数はさまざまで、ほかの箪笥より数倍、引き出しの数が多いのが特徴です。
 
絶対数は少ないのでなかなか見かけませんが、味のあるものが多く面白い箪笥です。
 
このほかにも引き出しの多い箪笥として有名なのは「香具箪笥」「歌書箪笥」「花箪笥」などがあります。

刀箪笥

その名のとおり刀を収納するための箪笥で、個人用の数振の刀を入れる時のものから、何十振という刀を入れられるものまであります。
 
個人用の刀箪笥は、刀の寸法に合わせて幅が4尺ほど、奥行きの狭い引き出しが2,3ついた細長い形をしています。引き出しの中には刀を寝させるため枕が付いています。
 
大型の箪笥は引き出しを抜くと、そのまま持ち運べるように配慮されているものもあります。時代は衣装箪笥等と比して古いものが多く、江戸の年号が記されたものも見受けられ珍重されます。

地方から見た箪笥

仙台箪笥

仙台箪笥は個性的な装飾で骨董的価値が早くから認められていたものです。最大の特徴は金具で、唐草や竜などの文様を打ち出しにして浮かび上がらせた、豪華なものが多く使われました。
  
材料は欅や栗で、内部や側面、背などには杉、桐が使われています。大きさはおよそ幅4尺(約121センチメートル)、高さ3尺(約91センチメートル)の横長で、上に横いっぱいの大引き出しがつき、その右下に中引き出しが3つ、その左下に小引き出しと片開き戸がついた形が一般的です。
 
塗りは紅色の透明な漆塗り(木地呂塗り)です。
 
仙台箪笥が作られ始めたのは江戸時代後期のことで、初期の頃のものは中引き出しに閂(かんぬき)がついており、金具は平鉄でツタの葉や鳥獣などがかたどられました。最盛期は明治30年代から大正初期で、引き手に木瓜が使われ、打ち出しの豪華な金具が使われました。

岩谷堂箪笥

一般的にはあまり知られていないようですが、岩谷堂箪笥は民芸箪笥の代表選手といえるほど有名です。
 
岩手県江刺市で作られたもので、その技術は受け継がれ、現在も尚民芸箪笥として生産されています。仙台箪笥と同系統に属す箪笥で、仙台箪笥にはない素朴な味わいを持っています。

米沢箪笥

山形県米沢市で作られた衣装箪笥です。金具にはアゲハ蝶か桜がデザインされているものが多く見られます。
 
代表的なものはおよそ幅3~4尺、高さ4尺で、ふたつ重ねになっています。
 
引き手は木瓜(もっこう)型で、上は右に小引き出しと片開き戸、左に中引き出しがつき、下は大引き出しふたつという形が一般的な構成です。材質は欅を中心に杉、檜なども使われました。

庄内箪笥

現在の山形県酒田市と鶴岡市を中心とした庄内地方に伝わる箪笥です。江戸時代後期に始まり、明治30年代から大正初期にかけて最盛期を迎えました。
 
黒漆塗りと欅の衣装箪笥のふたつが有名です。黒漆塗りのものは材料に桐、杉、樅(もみ)などが使われ、引き手は蕨手(わらびて)、金具は松竹梅や鶴亀などの文様が打ち出しで浮かび上がり、鉄の表面は赤味がかっています。
 
欅の箪笥は拭き漆で仕上げられ、木目が透けて見えます。金具は厚い鉄を使った抽象的な文様、引き手は角手(かくて)と重厚感のある面持ちをしています。いずれも形は縦長で、大きさはおよそ幅3尺、高さ4尺です。
 
古いものは1本もので出来ていますが、後にふたつ重ねになります。形は古いものに閂のついたものが多く、形的にもバリエーションに富んでいます。

二本松箪笥

福島県二本松の箪笥には欅箪笥が多く、次に杉、栗と続き、後には桐の箪笥が作られます。
 
大きさは幅3尺8寸高さ4尺と大型で、通常二つ重ねで4つか5つの引き出し付きです。錠前の細工が楽しく、鶴亀や小鳥など画動くの鍵穴隠しがついたものもあります。

佐渡箪笥

重厚な佐渡箪笥は時代箪笥の王様といった感じです。佐渡の小木は船箪笥の最大の産地であり、豪華な船箪笥が数多く作られました。佐渡の船箪笥生産の始まりは18世紀中期ごろで、幕末から明治20年ころ間での期間が最盛期にあたります。
 
木工と金工の優れた技術を有する船箪笥の影響を受けて、衣装箪笥も職人技を競うような豪華なものが作られました。佐渡の衣装箪笥の産地は小木と八幡の2箇所ありますが、小木は欅箪笥、八幡は桐の素木の箪笥が多く作られたようです。
 
代表的な形はいずれも幅・高さともに3尺8寸のふたつ重ねで、上下それぞれふたつずつの引き出しが付いているのが一般的です。金具は実に華麗で、小木のものは曲線を使った抽象的なデザインで、厚めでがっちりしたものが多く、八幡は薄く直線的な図形の中に透かし彫りの文様が入った繊細な造りのものが見られます。
※画像は八幡のものです。

松本箪笥

長野県松本市では地域的にも東北系の箪笥とは異なり、独特の雰囲気を持った箪笥が作られました。衣装箪笥は幅が2尺8寸、高さ3尺5寸が一般的。
 
形は引き出しが5つで右下に片開き戸のつくものもあります。材料は桐が多く漆塗り漆塗りと素木ののものがあります。金具は重量感のある角手や木瓜型の引き手が多く見られます。

※その他にも地方色の強いものもありますが、以上主だったもののみ紹介させていただきました。